2011年7月20日水曜日

二つの涙

10ヶ月にも及ぶ全社戦略立案支援プロジェクトを無事完遂し、クライアントに催して頂いた打ち上げへ。クライアントより、支援が無ければ完了できなかったとの感謝の言葉を頂き、また社内でも十指に入るくらい会社のことをよく知っている、とのお褒めの言葉を頂き、報われた気持ちから帰りの電車で涙を流す。

ちょうど二年前の今頃は正反対の涙を流していた。

今とは別のファームに居た当時、1年にも及ぶ業務改善プロジェクトに疲弊し切り、途中でドロップアウトすることとなった。長期間の深夜退社と休日出勤で心身共に消耗し、その上人事上のマネージャーからはそれでも仕事量が足らなく甘えに過ぎないと叱責され、現場のチームリーダーからは自己管理が出来ていないと非常に低い評価を付けられた。「東京に出てきて1年、こんなにも働いたのに、行き着いたのはこんな結末なのか」と考えるとあまりに悔しく、クライアント社屋近くの公園で大声をあげて泣いた。

思えば、あの二年前の墨を飲むような屈辱と流した涙が、今日の涙まで至る原動力となってくれた。今の自分にとって、この二つの涙は同じくらい重要な資産となっている。

2011年7月3日日曜日

技巧の形跡から推し量るレベルの高さ

Jay Rubinが英訳した村上春樹「ノルウェイの森」を読んでいると、素敵な翻訳がなされた箇所を発見。

「『グレート・ギャツビー』を三回読む男なら俺と友達になれそうだな」。
このセリフが、次のように訳されていた。
"This man says he has read The Great Gatsby three times," he said as if to himself. "Well, any friend of Gatsby is a friend of mine."

文学にも英語にも疎い素人としての意見だが、この"Well, any friend of Gatsby is a friend of mine."へのtranslateにプロの仕事を感じた。言語の違いの背後にある文化の違いが、実に簡潔に表されているように思う。

2011年3月14日月曜日

大震災

地元が宮城県なので不安で仕方ないです。
とりあえず両親の生存は確認できていますが・・・。

かえって迷惑とならないよう、
状況が整い次第現地へ手伝いに行くつもりです。

一人でも多くの方の無事をお祈りしております。

2011年3月6日日曜日

良い資料を作るための観点

討議資料や報告書といった資料を作るにあたっての観点を、自分なりにまとめてみる。

結論から言って、良い資料とは情報伝達効率の高い資料である。
そもそも資料は、何かを誰かに伝えるために作る。よって、その伝達効率が高い資料が良い資料と言える。

・情報伝達効率が高いとは、情報を劣化させないで、かつ少ない量で多くの情報を伝えることができることを指す
- 情報が劣化しない:伝えたいことが100あった時、資料化で100→80とならないようにする。
- 少ない量で多くのことを伝える:伝えたいことが100あった時、読み手の労力を削減するために、10(一枚あたり情報量)×10(資料数)ではなく、50×2になるようにする。

・資料作成の際は、まず何を書くかを決め、その後どう書くかを考えるという二つのステップを踏む
- 何を書くか決める:コミュニケーション能力を駆使し、問題解決・論点整理のために今、何を、どこまで検討すべきかを考える。
- どう書くか決める:
1.メッセージの構造化:左脳的な論理的思考力を駆使し、伝えたいことの構造を演繹的、もしくは帰納的に明確化する。
2.レイアウトのメイキャップ:右脳的なデザインセンスを駆使し、色合い(最大3色)や図表、枠線の太さやフォントに注意し、美しい資料に仕上げる。

このどう書くか考えるステップが非常に重要。経営に携わる人達は得てして時間がないので、一目見て見にくい(醜い)と感じられたら一気に伝達効率が落ちてしまう。

資料は自分の「作品」。時間的制限に留意しつつも、クオリティ向上のために、最大限工夫しなければならない。

2011年3月4日金曜日

任天堂、岩田社長のビジョン

華々しく報じられたiPad2とは対照的な、GDC(ゲーム開発者会議)@サンフランシスコ、任天堂岩田社長の基調講演より抜粋。(http://www.nintendo.co.jp/n10/gdc2011/index.html

プラットフォームビジネスに働くインセンティブ
スマートフォンやソーシャルネットワークのプラットフォームの目的は、そのプラットフォームがつくられた目的もそうですが、私たちとは異なっています。これらのプラットフォームには、ビデオゲームソフトの高い価値を維持する動機がありません。彼らにとっては、コンテンツは誰か他の人が作るものであり、彼らのプラットフォームにより多くのソフトを集めることが目標となります。より多くの量を集められればお金が流れるのです。量こそ利益の手段であり、価値は大した意味を持たないのです。

任天堂が定義する"イノベーション"
簡単なことです。私たちは常に自問をしています。「いま不可能だと思っていることで、可能にできることはないだろうか?」と。

エンターテイメントビジネスの本質
この産業が進化して、供給手段やビジネスモデルが変化しても、変わらないことが一つあります。第一に必要なもの、それはやはりコンテンツなのです。

隆盛を極めるプラットフォームビジネスの裏で、コンテンツレイヤーとデバイスレイヤーで地道にイノベーションを続ける任天堂。その地味ながらも、しかし着実な歩みこそ注視すべき。そう感じさせる素晴らしいスピーチだった。

2011年2月26日土曜日

電子書籍革命

一日一つくらいは仕事に(直接的には)関係無いリサーチペーパーを読まなければ、知見が深まらなくて成長しないなと思うので、取りあえずホットなこのテーマから。A.T. Kearneyより。

ビジネスとして成り立たせるための論点として、以下二点が挙げられていることが興味深い。
・価格設定:消費者にとっては値ごろ感。出版業者にとっては採算性
・アクセシビリティ:消費者にとってはコンテンツへのアクセス環境、出版業者にとっては広範な流通性

中でも価格設定は、全ての戦略の帰結が現れるため注視する必要がある。イニシアティブを持つのはプラットフォームと配信端末を押さえたディストリビューターなのか、それともコンテンツを生み出す出版業者なのか。この点は技術仕様やビジネスモデルによって変わってくる。前者に関して、ディストリビューターの寡占があるならばディストリビューターが持ち、オープン化して差別化できないならば出版業者が持つ。また後者に関して、単なる従来の小売のような書籍販売ではなく、プラットフォームの広告配信で稼ぐモデルも存在する。環境を動かすドライバーが多く動向の予測は難しい。

また、当然、電子書籍が主流となれば出版業者のオペレーションも大きく変わる。新たに注力しなければならない業務として、以下のものが言及されている。
・編集部門:どのコンテンツをどのプラットフォームに発信するか検討
・IT部門:コンテンツの配信フォーマットを検討
・法務や出版部門:デジタル著作権管理や配信契約に留意
・営業部門:クロスセルの最大化を目標とした活動
・流通、企画部門:従来の読者層を超えた顧客の定義とマネジメント

個人的に、このようなオペレーションが浸透するための組織改革が、既存の出版社が電子書籍に対応するにあたっての最大の壁なのではないかと考えている。誰よりも本という媒体が好きな人々が集まった出版社は、電子書籍時代の到来に最も強い拒否感を抱いている人々であろう。

活版印刷以来の書籍革命。
だからと言って特殊な業界の特殊なイノベーションの一例としてではなく、ハードからソフトへという大きな流れの一つと捉えると、学ぶところが多いと思う。

2011年2月12日土曜日

戦略管理会計

タイトルから推測されるような実務的な経営戦略の文脈で管理会計を語る(戦略立案のインプット、あるいはフィードバックとして)形ではなく、管理会計の各トピックと、経営戦略のフレームワークを並べてまとめた教科書的な構成となっている。
実務視点で血肉ある知識を深めるというよりは、経営管理に初めて取り組む人やCPAのBECを勉強する方が、管理会計と関連分野の全体像をざっくりと把握する際に有用。

【改訂2版】戦略管理会計【改訂2版】戦略管理会計
西山 茂

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2011年2月7日月曜日

森博嗣の道具箱

大学の教官としてでもなく、小説家としてでもない、エンジニアとしての森先生による工作のための道具論。何かに取り組むにあたって最も抵抗が大きいのは最初の一歩、腰を上げる時である。そして、良い道具はそのためのやる気を喚起してくれる。そこに良い道具最大の価値がある。

この点非常に納得するが、始めから良い道具を揃えることで、初期投資が嵩むこと、そして私の場合特に、道具を揃えた時点で満足してしまいがちなこと、この二点は負の側面か。最も、初期投資の多さは長続きしかつ道具の稼働率が高い水準を維持出来れば問題ではないのだが。そうなると真の課題は長続きしないことか・・・。

傍らに控え、いつも鼓舞し、長い間前進させてくれる最良のパートナーとして、素晴らしい道具を選び使うことの重要さを再確認。

森博嗣の道具箱―The Spirits of Tools (中公文庫)森博嗣の道具箱―The Spirits of Tools (中公文庫)
森 博嗣

中央公論新社  2008-02
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2011年2月6日日曜日

論点思考

「論点」が仕事上の最頻出ワードとなりつつある状況を受け、改めて再読。

・そもそも、正しい問いに答えているか? という問題意識を持つ
本書中でドラッカーの言葉、"The most serious mistakes in the world are not being made as a result of wrong answers. The truly dangerous thing is asking the wrong questions"を引いて問題提起しているように、間違った問いに答えることは、問題解決プロセスにおいて最も大きな過ちとなる。結果誤った方向に走りだすこととなり、成果は上がらないまま、時間、労力、カネをロスしていくこととなる。解くべき問題を見極め論点として設定することが、問題解決の出発点であり成否を決める鍵となる。

・インパクトと実行可能性の二軸で筋の良さを見極める
解いても効果が乏しい論点は取り組んでも旨みがなく、そもそも解決できない論点は取り組んでも徒労に終わってしまう。なので限られたリソースで、今、解くべき問題は何なのかを見極めることが必要となる。
経験ベースで判断できる感覚を磨いていくことが重要と説かれているが、私のようにまだ十分鼻が効かない身では、インパクトは条件設定した上での定量的な試算で見極め、実行可能性は取り組んだ経験の多寡や関連ステークホルダーとの調整度合(部門内調整<部門横断的調整<関係会社間調整<所管官庁調整)によって見極める形となるか。このプロセスを通して取り組む優先順序付けを行う。

・論点を大論点、中論点、小論点、といったレベルに構造化し論点をチェックする
営業利益の向上、といった論点設定ではレベルが高すぎて施策まで落ちない。その大論点を受けた中論点として、トップラインの向上(もしくはコスト削減)、更に小論点として新規顧客売上高の向上(もしくは物流コストの削減)といったレベルまで落とす。こういったイシューツリーによる問題解決アプローチは特に目新しいものではないが、本書では小論点から中論点、大論点へとレベルを上げてチェックする、という逆のアプローチが挙げられている。
確かに、実務上大論点からバラして全て綺麗に小論点、施策まで落とせるかというと無理があると感じるし、また時間的制約上すべきでもないだろう。全体観を持って虫食いのツリーを作ることをイメージし、筋が悪いと思ったらレベルを上げて論点を再考する。そうやって解決への筋道を立てていく。

ところで、本書で示している思考法は、プロジェクトのアプローチ設計というレベルだけではなく、日々の仕事というレベルにおいても活かすことができると思う。最近特に痛感する、「今何を考え取り組むべきか」ということの難しさ・・・。やることが定まればあとは走るだけなのだから、やはりやることを決めるのに最も注力しなければならない。弓道において、矢を放つ「離れ」それ自体よりも、狙いを定める「会」までの精度が的中を決めるように。

論点思考論点思考
内田 和成

東洋経済新報社  2010-01-29
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2011年1月30日日曜日

遠藤利三郎商店ワインセミナー第一回

押上の名ワインバー、遠藤利三郎商店のワインセミナーに参加。

飲み歩いていた大学時代、女性を口説くためにワインの薀蓄を披瀝する大人を見てから、「ワインの知識」そのものに対しても嫌悪感を持っていた。しかし、時を経て自分も大人の一人となりその悪い印象も薄れてきたのか、知らないよりは知っているほうがより酒飲みとしての楽しみが増えるだろうと思い参加することに。

第一回ということで、様々なワインを試飲しつつそれぞれの違いからワインの奥深さを知る構成。グラス9杯という大盤振る舞いのおかげで、それぞれのワインをじっくり味わうことができた。

・シャンパン
"ピオロ キュヴェ・ド・レゼルヴ"
(フランス/シャンパーニュ)
「シャンパン」とはフランスのシャンパーニュ地方で正式な規則に則って作られたワインを指す。色が白いワインは白ぶどうのみから作るものだと思っていたが、黒ぶどうも入れて作るらしい。(色素が着く前に皮を取り除くため色がつかない)

・赤スパークリングワイン
"ブリーズデール スパークリングシラーズ"
(オーストラリア/ラングホーン・クリーク)
初めて飲む「赤の」スパークリングワイン。何しろ無知なのでスパークリングワインはワインに炭酸を加えて泡立てるのだと思っていたが、実はワインを二次発酵させることで炭酸ガスを発生させて泡を加える。赤はタンク内、白(シャンパン含む)は瓶内発酵が多い。

・白ワイン
"エルデナー・トレプフェン・リースリング・アウスレーゼ"
(ドイツ/モーゼル)
「キューピー人形の匂い」とまで言われる特徴的な香りを持つリースリング種。言われてみると確かにそんな香りがする気も・・・。軽く酸味のある甘さ。甘さとアルコールは発酵の度合いで変わるということを学ぶ。(発酵は糖を消費してアルコールにするので、発酵が抑えられると甘さが残る)

"ブランド・ノワール・シュペートブルグンダーQbAトロッケン"
(ドイツ/ファルツ)
何と、黒ぶどう(ピノ・ノワール種)100%で作った白ワイン。そのため渋味があり味わい深い。下記のロゼや赤も同じピノ・ノワール100%。同じ葡萄なのに醸造過程の違いで白、ロゼ、赤となるとは・・・。奥が深い。

・ロゼ
"シャトー・ジェルマン・ブルゴーニュ・ロゼvv"
(フランス/ブルゴーニュ)
ロゼは甘いという認識があったが、しっかり発酵した辛口。

・赤
"ニュイ・サン・ジョルジュ"
(フランス/ブルゴーニュ)
渋味がありつつも軽く優雅な味。

・酒精強化ワイン
ワインにブランデー等アルコール分の高いお酒を混ぜて作る。空けてから半月飲めるほど持ちが良い。
"リヴザルト"
(フランス/ラングドック・ルーション)
カラメルのように甘い。デザートとして飲める食後酒。

"レア・アモンティリャード・エスクアドリラ"
(スペイン/ヘレス)
対してこちらは辛口。食後キリっとシメる時に相応しい。

"ピノー・デ・シャラント"
(フランス/コニャック)
シロップのように甘い。こちらもデザート感覚か。

こういった様々なワインを、店長のシニアソムリエ林さんのご説明を拝聴しながら飲むという贅沢。決してドイツだから甘い、白だから辛口、といった単純なものではなく、複雑で豊かな世界ということを実感した。地域、品種、生産者、醸造過程、年代、全てが変数となって複雑に影響して眼前の一杯となっていると思うと、しみじみとした感動を覚える。
・多様なワインを知ることで味覚のストライクゾーンを広げる
・安くて美味しいワインを知る
そんな身近な目的の下開催されたこのセミナー。参加を通じて、私自身にとってもワインを身近なものにしていきたい。

2011年1月27日木曜日

異業種競争戦略

非常に無駄の無い本。柔らかな語り口ながらも、「異業種から(へ)の参入」について考察するために必要な視点やツールが一揃い納められている。深みを捨てて網羅感と分かりやすさを取った構成の妙もあり、とても効率よく内容を頭に入れることができる。

要は、これまでのように会社の主観的な都合で事業領域を決めるのではなく、顧客のアクティビティや視点を起点に、よりマクロな視点で業界全体を捉え(事業連鎖)自社の位置付けを再定義し、事業環境の変化に対応していくべき、ということ。

あくまでツール(視点)集として位置づけるべき本なので、過去だけではなく、今起こっている異業種競争のケースに対して本書をリファレンスとして思考してみると、より言わんとしていることへの理解が深まると思われる。

異業種競争戦略異業種競争戦略
内田 和成

日本経済新聞出版社  2009-11-10
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2011年1月22日土曜日

森博嗣の半熟セミナ 博士、質問があります!

身の回りで当たり前に駆動している機械や現象も、はとそのメカニズムに思いを馳せると不思議に満ちていることに気づく。なぜ電車は曲がることができるのか、なぜヘリコプタは前進できるのか、なぜブーメランは戻ってこれるのか・・・。本書ではそういった疑問に、主に力学的な観点で真正面から答えている。

可愛らしいレイアウトや奥様のポップでレトロなイラストのためか一見平易な本に思えるが、その中身たるや中々しっかり作られており、純文系の私には少々キツく感じるパートもあった。

身近で「普通に」動いているものにも、実は意図と計算と工夫と試行錯誤が潜んでいる。個々のナレッジ以上に、そんな視点を得られたことが最大の収穫。

森博嗣の半熟セミナ 博士、質問があります! (講談社文庫)森博嗣の半熟セミナ 博士、質問があります! (講談社文庫)
森 博嗣

講談社  2011-01-14
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2011年1月21日金曜日

宝島社の宝は、マーケティング力のある人材である

一月の嶋口・内田研究会に参加してきたので、自分向けリマインド及び他者向け共有用にメモ。「出版は文化」という既成概念にとらわれない「商売」としての企画を立案できること、そして企画を実行できる「フラットなオーナー企業」という組織特性が強みか。

嶋口・内田研究会『宝島社のマーケティング戦略』
(講師)宝島社 マーケティング本部 広報課 課長 桜田 圭子(さくらだ けいこ)氏

<勉強会概要>
今年、女性ファッション誌『sweet(スウィート)』が100万部を3度突破、10月に創刊した40代女性誌『GLOW(グロー)』創刊号も発売4日目で完売するなど、ファッション誌販売部数の出版社別シェアでトップを走る宝島社。急伸の背景にあるマーケティング戦略と、様々な企業とのコラボレーションで、出版業界だけでなく様々な業界を活性化している宝島社の取組みについて紹介する。

<サマリ>
1.雑誌のライバルは雑誌ではない
雑誌を習慣的に読む人は少ないため、市場を拡大させなければ売上は増えない。なので、読者ターゲットは「普段雑誌を読まない人」。あえてアンパンマンなど普段雑誌と接点が無い人向けにCMを流し、競合を問われればスタバやコスメだと答える。

2.出版の既成概念にとらわれず、「商品」として付加価値を上げていく
編集部で企画・デザインする「ブランドアイテム」(付録)により、従来の雑誌には無い訴求力を発揮している。

3.迅速な施策の実行が可能なのは、フラットな社風のオーナー企業だから
クリエイティブな仕事はピラミッド型ではできない。中途入社が大半の異業種からの転職が多いことで生まれる自由な発想を、プロデュース、コーディネート型の社風が推進し、(企画から製造まで、一人の編集者が最後まで周りを巻き込んで担当する)オーナー社長が即座に決裁・実行に移す。加えて社員想いの経営スタイルがより基盤を強化している。(社内報のサブタイトルで「社員は宝だ」と掲げているほどに) 

<詳細>
■スピーカープロフィール
・98年広告代理店入社
・00年宝島社入社
・06年早稲田大学大学院商学研究科へ
  (マーケティングを体系的に学びたかったから)

■宝島社プロフィール
・今年創立40周年
・当初は地方自治体のコンサル企業だった
・創業者社長のオーナー企業
・コミュニケーション重視の、明るくフラットな社風
・従業員200名で、7割が中途入社
・売上高327億円(過去最高)
・毎月500万部発行
・アンメットニーズを刺して市場を創出していく文化

■主なヒット誌の特徴
・CUTiE:日本初のストリートファッション紙としてヒット
・InRed:属性別(既婚、未婚、キャリア等)ではない一般30代女子へのファッション誌としてヒット
・mini:旧来無かったTシャツ、スニーカー、ジーンズといった超カジュアル誌としてヒット
・steady.:OL通勤服に特化してヒット
・GLOW:属性別(既婚、未婚、キャリア等)ではないマス向け40代ファッション紙としてヒット

■出版社におけるマーケティング
・以前は勘、度胸、センスの世界で、戦略的なことは何もやってなかった。
大学の経営戦略の授業で自社を取り上げてマーケティングの課題を抽出。
  社長に提案すると意外に刺さりマーケティング改革へ。

■マーケティング会議の導入
・社員全員でマーケティングについて知る必要があると判断され、
  社長、書店営業、広告営業、編集長、宣伝、広報、WEBといった部門横断的なマーケティング会議が設けられた。

■全社戦略
一番誌戦略
  広告市況が構造的に悪化しマーケットで一番でないと広告がつかなくなっていたため、業界一位を目指す。
出版は商品である
  出版界には「出版は文化であって、商品じゃない」という考えがあった。
  しかし宝島社はモノ売ってカネ貰う以上は商品だろう、という認識の下、
  いかに商品としての付加価値を高めるかについて考えを尽くした。
雑誌を読まない人をターゲットにする
  習慣的に雑誌を読む人は少ないので、雑誌を読まない人をターゲットにしようと思った。

■4P
・Product
2004年から毎号ブランド付録をつけることにした。
この「ブランドアイテム」は編集がすべて企画からデザインまで行い、ブランドは全く関わらない。編集部がデザインしているのは、ブランドのファン以外を取り込むため。

付録の人気の秘訣は、
-雑誌の読者の好み(色、柄、形等)とマッチするように、企画・デザインしている。
-月間誌ならではの限定感を出している。
-表紙を商品のパッケージとして捉え、コンビニの雑誌棚に刺したときに付録が見えるようにレイアウトしている。(上から12cmの法則)

・Price
これまでは「(コストの積上げ+利益)/想定部数」で決めていたため、一般的な感覚よりも高い価格が余裕で付けられていた。「読者の感じるお買い得感」で決めることにした。表紙やボリュームは毎月変わるので、毎月定価を変えている。

・Promotion
「クチコミは、期待値とのギャップで生まれる」との考えより、顧客が驚く仕掛けを作っていく。

>対読者
「いかにテレビの情報番組で取り挙げられるか」を目的にイベントを仕掛けている。
-日本ファッションリーダーアワード、みたいな賞を作って取材を呼ぶ
-Sweet 107万部突破記念として渋谷で無料ショッピングシャトルバス
-GLOW創刊イベントとして銀座松屋で40代女性400人にルビーをプレゼント
 (※テレビ映り的に40代女性が並んでいる絵を欲したため)

>対広告主
Panasonicの電動歯ブラシ開発に編集者の意見を反映させたりと、広告主の商品企画支援という形で食い込んでいるケースが増えてい

>対書店
宝島社書店という書店内書店を作り、5感に訴えかける売り場(アップテンポの音楽や雑貨屋みたいなバック展示)を提供。その間紀伊国屋の売上が二倍に!普段書店に来ないお客さんを引き込むことができた

・Place
衰退していると言われるが、実は既存の出版流通はかなり魅力的
整備された流通網、全国のカバレッジ、好立地等強みがある。
※電子書籍は出版社が儲かるビジネスモデルではないし、異業種の競合がひしめくので算入を検討していない。

以上の結果、
女性ファッション誌売上高:1位、広告収入も業界1位!
マーケティング導入により売上237%アップ!

2011年1月19日水曜日

美人の条件とそのメリット

雑誌Pen 2011 2/1号 (No.283)は美人特集。
今ホットな女優・モデルを紹介するだけではなく、美人に関してグローバルな比較、ヒストリカルな時系列比較、美人社長から美人犯罪者、はたまた美容整形まで、と流石な網羅感を発揮した厚みのある特集となっている。

・美人の条件は各国様々
各国でヒアリングした美人の条件が列記されているが、お国柄が出ていてなかなか興味深い。アメリカのセクシー重視はまあ周知のものとして、「胸が大きいと全てに成功する」とまで言われるチェコ、対象的に「中性的で少女的な体型」が美人とされるスウェーデン。この特集の仮説を念頭に各国旅して検証したら、きっと楽しい旅行となるだろう。

・美しさは罪と言うが、美人は罪が軽くなる傾向がある
美人犯罪者の項目の中で量刑判断における美人であることのメリットが挙げられている。紹介されているメリーランド大学のシーガル、オストローヴ論文によると、

美女が加害者の場合

・人は美女が悪いことをすると、本性は悪くないのにそうせざるをえない社会に原因があったのではないかと考える
 (一方で人は美女がよいことをすると、元々の資質だと考える)
・窃盗罪を犯したと仮定し美人とそうでない人の写真を見せたところ、美人の罪は軽く判断され、懲役年数には倍の開きが出た

被害者の場合

・より同情を集め、犯人の量刑が重くなる傾向がある
これらを考慮すると、最も理不尽なケースは、美人が被害者でそうではない人が加害者である時か。なるほど。

(そんなことを言う資格があるのか、という点は置いておいて)私見を述べると、美人の条件は容姿、哲学、努力だと思う。容姿のみなら可愛い、綺麗で足りる。思想性や何かに取り組む姿勢等、内面的な要素が加わって初めて美人足り得る。そんな印象がある。

2011年1月18日火曜日

図解ABC/ABM入門

IBCSのアソシエイトパートナーによる、ABC/ABMのメソドロジーガイド。いずれの側であれプロジェクトに関わることとなった際、アプローチの概要を把握する点で有用なガイドブック。

業務をその質的特徴から大、中、小、細分類にブレイクダウンし(あるいはヒアリングベースでボトムアップし)、単価×時間×回数という観点で量的特徴を把握する。その上で顧客に対して付加価値を産まなく必要性も無い業務を炙り出し削減。主に人件費ベースで明らかとなった定量的効果を説明材料として、「改善」を進めていく。

業務周りから離れて久しいので最新のトレンドを把握している訳ではないが、システム導入の投資効果を社内外のステークホルダーに説明するために用いられる場面が多い印象がある。
相対的な人手不足によるホワイトカラーの多能工化と難度の高い非定型業務の増大が進む中、どれほど有用性を訴えられるか、またどのようにしてプロジェクト終了後も自律した改善活動として定着させることができるか、ぱっと浮かぶ課題はそんなところか。

図解 ABC/ABM入門図解 ABC/ABM入門
佐藤 俊行

東洋経済新報社  2009-09-25
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2011年1月16日日曜日

小説家という職業

小説家(工学博士)森博嗣が自己の経験を元に小説家になるためのノウハウを著した、小説論。加えて、出版業界の課題およびその展望についても触れられている。

1.小説家になるためのノウハウ
1-1.小説家を志す人へのメッセージ
小説を書くことを「仕事」としたいのならば、まずこれを仕事にするという「姿勢」を持ちなさい。仕事なのだから、好き嫌いではなく戦略とビジネスマナーを持って望みなさい。その上で、四の五の言わず書きなさい。とにかく書きなさい。
1-2.森先生が小説家になるまで
・なぜなったのか
:参入障壁が低かったから。初期投資が少なく、競合との力の差も無さそうだった。
・どうやってなったのか
:とにかく頭の中にある物語をMacで書き起こしてみた。それから文芸誌の賞に応募した。そしたら編集者が訪ねてきて出版することになった。
・なぜ小説家としてあり続けられたのか
:小説家になること自体が目的なのではなく、デビュー後のビジョンを持っていた。そのために、よくある以下の落とし穴に足を取られることがなかった。
a:最初の作品で全てのネタを出し尽くしてしまう。
b:読者に飽きられてしまう。

2.出版業界の展望
暗い。電子書籍が全盛となりメディアが「本」ではなくなったら、出版社は(卸、印刷会社も同様に)不要となる。究極的にはコンテンツ生産者である作家のみが居ればビジネスとして成立するようになるため。

小説の創作に関しては、村上春樹さんも確か同様のことを述べていたように思う。とにかく書いてみること、と。しかし一方で、氏の一連の作品に強いメッセージ性があることを考慮すると、自覚的にせよ無自覚にせよ、アウトプットしたい動機が自分の中にあることが、小説家となるための前提条件なのかもしれない。

出版業界の展望については、また別途改めて動向と課題を整理してみたい。作家自身にお先真っ暗と言われているほど課題の多い業界だが、電子書籍時代に存在価値を示すにはどういった施策があるのか。作中でも言及されているように「本好きな人達」であるからこそ、最も媒体の変化を受け入れ難いのだろう。ユーザー以上に。その点が施策の実行可能性を減じる心理的なハードルとなるように思える。

小説家という職業 (集英社新書)小説家という職業 (集英社新書)
森 博嗣

集英社  2010-06-17
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2011年1月10日月曜日

FBIアカデミーで教える心理交渉術

ビジネスや政府間交渉で活躍し、アイビーリーグ等の有名大学で交渉学の講座を持つ交渉の第一人者による、交渉のノウハウ本。まず交渉にあたる際の心がけやテクニックを挙げ、ホテルの宿泊や電化製品の買い物といった日常生活の中で原則を活用した実例を紹介し、交渉の基本原則への理解を深めていく、という流れになっている。まず社会が交渉の場であることを認識し、その上で、各交渉で力を行使するように努力することが重要。

・「この状況は交渉である。という認識を持つことが第一
本書の価値は小手先の心理戦テクニックではなく、社会は交渉により成り立っているという認識を持つことにある。第一章の冒頭に、「われわれの住む社会は、巨大な交渉の場だ。そして、好むと好まざるとにかかわらず、あなたもその参加者だ。」とあるように、交渉に参加しているという意識を持つことが重要なのである。交渉は一部の人が特定の状況で行使する特殊なスキルではなく、生活の基本的なスキルである。その気づきを得るだけでも得られる利は大きい。

・場当たり的な小手先のテクニックではなく、前提として努力が重要
交渉の場で重要となる三つのドライバー、「時間」、「力」、「情報」。そして前提となる潤滑油として信頼関係の醸成が成功のキーとなることを考慮すると、交渉に向かうまでの過程で労を惜しまないことが重要である。力のある専門家足らしめるよう、そして相手の信頼を得るように地道に努力することが、単なる口先の技術よりもずっと、要求されているように感じた。

蛇足だが、タイトルと装幀は本書の内容を考慮すると必ずしも適切ではないように思える。
・「FBIアカデミー」を強調したタイトルは、必ずしも内容と合致していない
は、"FBI"を冠したタイトルから推し測られる印象(犯人とのシリアスな交渉)とは合致しない。確かに書店で人目を引くタイトルだが、内容を考慮すると、素直に原題"You can negotiate anything"に準拠したほうが適切かと思う。
・「イロモノ」的な装填は、交渉の王道を伝える本書のコンセプトに相応しくない
交渉の第一人者が語る体系的な交渉術、という王道的な内容であるのに、スカイブルーにピンクという装填のために「オトナ」な本かと見紛ってしまう。このため折角素晴らしい内容なのに、人に勧め難くなっている・・
軽薄な外見から半信半疑で手にとったが、その中身たるや非常に真面目で骨がある。コミュニケーション論分野では珍しく王道的で有用な本だった。

FBIアカデミーで教える心理交渉術 (BEST OF BUSINESS)FBIアカデミーで教える心理交渉術 (BEST OF BUSINESS)
ハーブ コーエン 川勝 久

日本経済新聞出版社  2008-03-22
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2011年1月6日木曜日

村上朝日堂の逆襲

日刊アルバイトニュースという雑誌に連載されていたコラムをまとめたエッセイ集の続編。村上さんの極めて日常的な諸事のエッセイに、安西水丸さんのポップな挿絵が添えられている。つれづれと生活の物事が楽に綴られた、現代的に言い換えればブログのようなエッセイ。後に現れる「遠い太鼓」のようなテーマ性は無いが、頭を空にして読んでいるとふと現れる本質を捉えた言葉に衝撃を受けることになる。

・私生活版、印象に残ったインサイト
ダイエットブームに関して。「人には様々な顔つきや性格があるように、人の太り方にも様々な太り方があるのであって、万人に適した痩せ方はない」経験的に的を射ているように思う。まずは自分の太り方を知ることから始めなければならないか。そういった意味で、レコーディングダイエットは最も真っ当なダイエットなのかもしれない。

・仕事版、印象に残ったインサイト
禁煙に関して。「要するに何から何までうまくやってのけることなんて自分にはとてもできないし、何かをなしとげるにはべつの何かを捨てるしかないのだと認識することである。」既に両手に荷物を持っているのにその上また何かを持とうとしても、却ってバランスを崩して全て零すことになってしまうことになる。仮にまだ背中が使えるとしても、キャパを超えて背負ってしまえば運ぶスピードが遅くなり、結局何一つ期限内に達成できなくなる。何を捨てるのか、という判断は何を得ようとするのか、と同等かそれ以上に重要であるように思う。

村上朝日堂の逆襲 (新潮文庫)村上朝日堂の逆襲 (新潮文庫)
村上 春樹 安西 水丸

新潮社  1989-10-25
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2011年1月3日月曜日

New Year's Resolution

明けましておめでとうございます。
本年も何卒よろしくお願い致します。

2011年は、本職で結果を出すことは大前提として、よりスキルアップに主眼を置いた一年としたいと思います。外部から受ける刺激のインプット、処理、アウトプット、フィードバックといった一連の流れを高速で回し続ける。その中で自分独自の「回路」を洗練させていくことを目指します。

1.インプット
ジャンル、媒体問わず「いい仕事」との接点を増やすことを心掛ける。

2.処理
得た情報から、仕事や生活に活かすという観点の下、抽象化しエッセンスを抽出する。

3.アウトプット
処理した情報を外部に出せる状態に言語化する。情報の量や質に応じてblog,Facebook,twitter,私的ノートといったように出先を使い分ける。

4.フィードバック
一連のサイクルの流れや速度や得た気づきから、「回路」を進化させる。

上記のプロセスの中で最も重要なのは、全てのプロセスの前提となるインプットの精度です。子供のような好奇心・素直な好奇心をインセンティブに周りに目を光らせ、大人の質的判断でセレクトし、コストパフォーマンスに優れたインプットを積んで行きたいと思います。まだまだ愚かな幼児として、何事からも10学ぶことを心がけて。