2011年2月26日土曜日

電子書籍革命

一日一つくらいは仕事に(直接的には)関係無いリサーチペーパーを読まなければ、知見が深まらなくて成長しないなと思うので、取りあえずホットなこのテーマから。A.T. Kearneyより。

ビジネスとして成り立たせるための論点として、以下二点が挙げられていることが興味深い。
・価格設定:消費者にとっては値ごろ感。出版業者にとっては採算性
・アクセシビリティ:消費者にとってはコンテンツへのアクセス環境、出版業者にとっては広範な流通性

中でも価格設定は、全ての戦略の帰結が現れるため注視する必要がある。イニシアティブを持つのはプラットフォームと配信端末を押さえたディストリビューターなのか、それともコンテンツを生み出す出版業者なのか。この点は技術仕様やビジネスモデルによって変わってくる。前者に関して、ディストリビューターの寡占があるならばディストリビューターが持ち、オープン化して差別化できないならば出版業者が持つ。また後者に関して、単なる従来の小売のような書籍販売ではなく、プラットフォームの広告配信で稼ぐモデルも存在する。環境を動かすドライバーが多く動向の予測は難しい。

また、当然、電子書籍が主流となれば出版業者のオペレーションも大きく変わる。新たに注力しなければならない業務として、以下のものが言及されている。
・編集部門:どのコンテンツをどのプラットフォームに発信するか検討
・IT部門:コンテンツの配信フォーマットを検討
・法務や出版部門:デジタル著作権管理や配信契約に留意
・営業部門:クロスセルの最大化を目標とした活動
・流通、企画部門:従来の読者層を超えた顧客の定義とマネジメント

個人的に、このようなオペレーションが浸透するための組織改革が、既存の出版社が電子書籍に対応するにあたっての最大の壁なのではないかと考えている。誰よりも本という媒体が好きな人々が集まった出版社は、電子書籍時代の到来に最も強い拒否感を抱いている人々であろう。

活版印刷以来の書籍革命。
だからと言って特殊な業界の特殊なイノベーションの一例としてではなく、ハードからソフトへという大きな流れの一つと捉えると、学ぶところが多いと思う。

2011年2月12日土曜日

戦略管理会計

タイトルから推測されるような実務的な経営戦略の文脈で管理会計を語る(戦略立案のインプット、あるいはフィードバックとして)形ではなく、管理会計の各トピックと、経営戦略のフレームワークを並べてまとめた教科書的な構成となっている。
実務視点で血肉ある知識を深めるというよりは、経営管理に初めて取り組む人やCPAのBECを勉強する方が、管理会計と関連分野の全体像をざっくりと把握する際に有用。

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西山 茂

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2011年2月7日月曜日

森博嗣の道具箱

大学の教官としてでもなく、小説家としてでもない、エンジニアとしての森先生による工作のための道具論。何かに取り組むにあたって最も抵抗が大きいのは最初の一歩、腰を上げる時である。そして、良い道具はそのためのやる気を喚起してくれる。そこに良い道具最大の価値がある。

この点非常に納得するが、始めから良い道具を揃えることで、初期投資が嵩むこと、そして私の場合特に、道具を揃えた時点で満足してしまいがちなこと、この二点は負の側面か。最も、初期投資の多さは長続きしかつ道具の稼働率が高い水準を維持出来れば問題ではないのだが。そうなると真の課題は長続きしないことか・・・。

傍らに控え、いつも鼓舞し、長い間前進させてくれる最良のパートナーとして、素晴らしい道具を選び使うことの重要さを再確認。

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2011年2月6日日曜日

論点思考

「論点」が仕事上の最頻出ワードとなりつつある状況を受け、改めて再読。

・そもそも、正しい問いに答えているか? という問題意識を持つ
本書中でドラッカーの言葉、"The most serious mistakes in the world are not being made as a result of wrong answers. The truly dangerous thing is asking the wrong questions"を引いて問題提起しているように、間違った問いに答えることは、問題解決プロセスにおいて最も大きな過ちとなる。結果誤った方向に走りだすこととなり、成果は上がらないまま、時間、労力、カネをロスしていくこととなる。解くべき問題を見極め論点として設定することが、問題解決の出発点であり成否を決める鍵となる。

・インパクトと実行可能性の二軸で筋の良さを見極める
解いても効果が乏しい論点は取り組んでも旨みがなく、そもそも解決できない論点は取り組んでも徒労に終わってしまう。なので限られたリソースで、今、解くべき問題は何なのかを見極めることが必要となる。
経験ベースで判断できる感覚を磨いていくことが重要と説かれているが、私のようにまだ十分鼻が効かない身では、インパクトは条件設定した上での定量的な試算で見極め、実行可能性は取り組んだ経験の多寡や関連ステークホルダーとの調整度合(部門内調整<部門横断的調整<関係会社間調整<所管官庁調整)によって見極める形となるか。このプロセスを通して取り組む優先順序付けを行う。

・論点を大論点、中論点、小論点、といったレベルに構造化し論点をチェックする
営業利益の向上、といった論点設定ではレベルが高すぎて施策まで落ちない。その大論点を受けた中論点として、トップラインの向上(もしくはコスト削減)、更に小論点として新規顧客売上高の向上(もしくは物流コストの削減)といったレベルまで落とす。こういったイシューツリーによる問題解決アプローチは特に目新しいものではないが、本書では小論点から中論点、大論点へとレベルを上げてチェックする、という逆のアプローチが挙げられている。
確かに、実務上大論点からバラして全て綺麗に小論点、施策まで落とせるかというと無理があると感じるし、また時間的制約上すべきでもないだろう。全体観を持って虫食いのツリーを作ることをイメージし、筋が悪いと思ったらレベルを上げて論点を再考する。そうやって解決への筋道を立てていく。

ところで、本書で示している思考法は、プロジェクトのアプローチ設計というレベルだけではなく、日々の仕事というレベルにおいても活かすことができると思う。最近特に痛感する、「今何を考え取り組むべきか」ということの難しさ・・・。やることが定まればあとは走るだけなのだから、やはりやることを決めるのに最も注力しなければならない。弓道において、矢を放つ「離れ」それ自体よりも、狙いを定める「会」までの精度が的中を決めるように。

論点思考論点思考
内田 和成

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