2011年1月10日月曜日

FBIアカデミーで教える心理交渉術

ビジネスや政府間交渉で活躍し、アイビーリーグ等の有名大学で交渉学の講座を持つ交渉の第一人者による、交渉のノウハウ本。まず交渉にあたる際の心がけやテクニックを挙げ、ホテルの宿泊や電化製品の買い物といった日常生活の中で原則を活用した実例を紹介し、交渉の基本原則への理解を深めていく、という流れになっている。まず社会が交渉の場であることを認識し、その上で、各交渉で力を行使するように努力することが重要。

・「この状況は交渉である。という認識を持つことが第一
本書の価値は小手先の心理戦テクニックではなく、社会は交渉により成り立っているという認識を持つことにある。第一章の冒頭に、「われわれの住む社会は、巨大な交渉の場だ。そして、好むと好まざるとにかかわらず、あなたもその参加者だ。」とあるように、交渉に参加しているという意識を持つことが重要なのである。交渉は一部の人が特定の状況で行使する特殊なスキルではなく、生活の基本的なスキルである。その気づきを得るだけでも得られる利は大きい。

・場当たり的な小手先のテクニックではなく、前提として努力が重要
交渉の場で重要となる三つのドライバー、「時間」、「力」、「情報」。そして前提となる潤滑油として信頼関係の醸成が成功のキーとなることを考慮すると、交渉に向かうまでの過程で労を惜しまないことが重要である。力のある専門家足らしめるよう、そして相手の信頼を得るように地道に努力することが、単なる口先の技術よりもずっと、要求されているように感じた。

蛇足だが、タイトルと装幀は本書の内容を考慮すると必ずしも適切ではないように思える。
・「FBIアカデミー」を強調したタイトルは、必ずしも内容と合致していない
は、"FBI"を冠したタイトルから推し測られる印象(犯人とのシリアスな交渉)とは合致しない。確かに書店で人目を引くタイトルだが、内容を考慮すると、素直に原題"You can negotiate anything"に準拠したほうが適切かと思う。
・「イロモノ」的な装填は、交渉の王道を伝える本書のコンセプトに相応しくない
交渉の第一人者が語る体系的な交渉術、という王道的な内容であるのに、スカイブルーにピンクという装填のために「オトナ」な本かと見紛ってしまう。このため折角素晴らしい内容なのに、人に勧め難くなっている・・
軽薄な外見から半信半疑で手にとったが、その中身たるや非常に真面目で骨がある。コミュニケーション論分野では珍しく王道的で有用な本だった。

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