2011年1月16日日曜日

小説家という職業

小説家(工学博士)森博嗣が自己の経験を元に小説家になるためのノウハウを著した、小説論。加えて、出版業界の課題およびその展望についても触れられている。

1.小説家になるためのノウハウ
1-1.小説家を志す人へのメッセージ
小説を書くことを「仕事」としたいのならば、まずこれを仕事にするという「姿勢」を持ちなさい。仕事なのだから、好き嫌いではなく戦略とビジネスマナーを持って望みなさい。その上で、四の五の言わず書きなさい。とにかく書きなさい。
1-2.森先生が小説家になるまで
・なぜなったのか
:参入障壁が低かったから。初期投資が少なく、競合との力の差も無さそうだった。
・どうやってなったのか
:とにかく頭の中にある物語をMacで書き起こしてみた。それから文芸誌の賞に応募した。そしたら編集者が訪ねてきて出版することになった。
・なぜ小説家としてあり続けられたのか
:小説家になること自体が目的なのではなく、デビュー後のビジョンを持っていた。そのために、よくある以下の落とし穴に足を取られることがなかった。
a:最初の作品で全てのネタを出し尽くしてしまう。
b:読者に飽きられてしまう。

2.出版業界の展望
暗い。電子書籍が全盛となりメディアが「本」ではなくなったら、出版社は(卸、印刷会社も同様に)不要となる。究極的にはコンテンツ生産者である作家のみが居ればビジネスとして成立するようになるため。

小説の創作に関しては、村上春樹さんも確か同様のことを述べていたように思う。とにかく書いてみること、と。しかし一方で、氏の一連の作品に強いメッセージ性があることを考慮すると、自覚的にせよ無自覚にせよ、アウトプットしたい動機が自分の中にあることが、小説家となるための前提条件なのかもしれない。

出版業界の展望については、また別途改めて動向と課題を整理してみたい。作家自身にお先真っ暗と言われているほど課題の多い業界だが、電子書籍時代に存在価値を示すにはどういった施策があるのか。作中でも言及されているように「本好きな人達」であるからこそ、最も媒体の変化を受け入れ難いのだろう。ユーザー以上に。その点が施策の実行可能性を減じる心理的なハードルとなるように思える。

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森 博嗣

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