2010年11月29日月曜日

あしたのための「銀行学」入門

元マッキンゼーのパートナー・リテールバンキングプラクティスリーダーが解く銀行のビジネスモデルと課題。筆の運ぶまま銀行のビジネスモデルと課題について広範に論じられており、中でもポイントとして、以下の三点が挙げられる。

1.「貸し渋り」で責められるべきは銀行(だけ)ではない
2.日本の銀行は収益性が低い
3.本質は21世紀の中小企業問題

1.「貸し渋り」で責められるべきは銀行(だけ)ではない
要するに、そもそも貸し先の中小企業の業績が落ち込んでいるから、貸したくても貸しようがないという話。

・中小企業のうち、貸し渋りを受けた(=以下のパターン。希望通りに融資を受けれたが条件が厳しくなった、希望よりも融資額が減額された、融資を謝絶された)のは、12~17%に過ぎない。一般的に住宅ローン申請の3割が断られることを考慮すると、決して高い水準とは言い難いか。

・そもそも、銀行もビジネスなので、返済してもらえないリスクが高いと合理的に判断できる理由があれば、道義的に不当な「貸し渋り」ではない。論点3にもつながるが、中小企業一社あたりの売上高はバブル期前の80年代前半に比べて半減している。

・その証左として、中小企業融資に特化した新銀行東京や日本振興銀行は、危機に瀕したり破綻している。

2.日本の銀行は収益性が低い
英米に比べて一貫して低水準にある邦銀の収益性。ではコストが高いのか、というとそんなことはない。一般管理費のような内部コストはかなり抑えられ低水準にある。(※貸倒引当金といった信用コストは本書で深堀されていないので省略。)
問題は収入面にある。低水準の金利、そしてそもそも金利を抜くビジネスモデルの限界。収入向上の施策として挙げられている金利の引き上げ、投信や保険の販売会社化の進展は当然の流れか。
(余談だが、経営効率向上の施策として挙げられている地銀の統合推進は、「なぜ劇的に進展しないのか」という課題設定の下深堀すると、様々な論点があるかと思われる。)

3.本質は21世紀の中小企業問題
結局は、借り手が元気にならないと銀行のビジネスも立ちいかない、ということ。本書ではそういった文脈で、中小企業の課題と施策が論じられている。銀行がグループとグループを媒介する中間的なビジネスモデルである以上、根本的な問題は媒体自体よりも、やはりグループにある。経営統合や健全な廃業を保証する仕組みづくり等の施策で中小企業の収益性が改善しない限り、中小企業融資で収益を上げることは困難であり続けるのだろう。

銀行論を論じていたら、いつの間にか中小企業論になっていた。
この健全な論旨を幹に、銀行の課題を幅広く論じた良書。
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