震災の記憶
いつも「泥」のことを思い出す。
宮城県に住む家族が被災したが、沿岸部ではなく内陸部だったこともあり、壁にヒビが入り食器や家具が壊れる程度で済んだ。住宅はリフォームを進め、食器や家具は買い換えれば元の状態に戻っていく。次第にその状態をデフォルトとして、記憶は上書かれていくのだろう。
震災発生の数週間後、津波の被害に遭われた家屋を復旧するボランティアに参加した。その際、スコップで掻き出した泥が強く記憶に残っている。潮気や様々なものを含んだ、日常生活では存在し得ない匂い。体勢を崩すほど手に残るずっしりと重い感触。あの日の災厄を象徴しているようで、のまれることを想像するまでもなく、心根が鷲掴みにされるような恐怖を感じさせるものだった。
月日を経ても、フィジカルな記憶は強く残り続ける。自分にとってはあの泥が震災の記憶であり、今も心の奥底に堆積している。
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